働く母のすすめ

You are stronger than you think.

私の尊敬するイクボスの話

幸運なことに。私は、これまでに何人かの尊敬出来る上司に出会うことが出来た。

 
中でも1番尊敬している人は、前職時代の直属の上司で、私よりも7-8歳くらい年上の男性。当時アラフォーだったその上司は、長子と2-3歳ほど歳の離れた第二子を授かったところだったのだけれど、ワークとライフのバランスがものすごくよく取れている人だった。当時、専業主婦をしていた奥さん(医師)のことは「子どもを持ちたいという夫婦の希望のために、今は申し訳ないのだけれど、妻に仕事を”休んでもらっている”」と表現し、要職に就き、いくら時間があっても終わらない仕事を抱えているにも関わらず、ほとんど残業することなく帰宅して、家で家事や育児をしていた。職場滞在時間は、チームで1-2番を争う短さだったけれど、そのアウトプットはチーム内ではもちろん、業界でもトップクラスだった。「子どもたちの寝かしつけで毎日9時に寝てしまうから、朝は3時頃に起きちゃうんですよ。」いつだったか、上司から来た仕事メールの送信時間が朝の4時台だったことがあり、私が「ご多忙のところすみませんでした」と言ったら、照れくさそうにそう言った。
 
さらには。自身のワークライフバランスだけでなく、部下のワークライフバランスにも心を配ることができる人で。子どもや家族の事情で仕事を休まなければならない人に対しても「家族あっての仕事ですから。今は家族のことを最優先にしてください。こちらのことは気にしなくても大丈夫です。」と言い、決してアウトプットを急かすことなく、見守ってくれていた。仕事のアウトプットの質はもちろん、際限なく出てくる相手を思いやる言葉の種類の多さからも、上司の頭の回転の早さや思考の柔軟さが滲み出ていた。
 
 
イクメンという言葉には反発を感じる人もいると思うけれど。実際のところ、言葉が広がったことでイクメンを意識する人や、例えそれが否定的な意見であったとしても議論する人などが増え、結果として「夫婦でどう役割分担をするか」を自分たちの頭で考えるという人が増えたんじゃないかと思う。
そういう意味で、私は上記の「イクボス」と言う言葉も、イクメン同様に議論を巻き起こすきっかけになればよいなと思っている。専業主婦の妻に支えられていることを疑問に思うことなく、漫然と過ごしてきた男性はもちろん、マッチョに出世してきた女性の敵は女性にも、ぜひ一度考えてもらいたいと思う。自分の成果を優先した働き方ではなく、社会全体としての利益や個々人のQOLの向上を目指した働き方について。
 
不幸なことに。今の上司は、恐怖政治で仕事をやらせるタイプで、子育て中の人や親の介護が必要な人にも容赦なく、ここに記載することも憚られるような残酷な言葉や言動をもって、成果を要求する。
けれど、私は例え仕事のアウトプットが滞り、自分が上司から手厳しく叱責されることになったとしても、かつての上司がそうであったように、私と一緒に仕事をしてくれる方々のワークライフバランスを優先させたいと思っている。
 
それは決して、優しさとかそういう気持ちの問題だけの話ではなく。恐怖政治でドタバタと出したアウトプットは、量は多いかもしれないが質は伴わないし、長続きもしない。相手のワークライフバランスを尊重した進め方の方が、例えスローペースでも、自身の仕事に集中出来る環境で出した質のよいアウトプットが出続ける。人間の心理や心情に寄り添った方が、結果として、一緒に働く人たちはもちろん自分自身のアウトプットも向上するという、ある種打算的な行動であったりもする。
私がかつての上司を尊敬していたのは、多分もともと優しい性質であったのだとは思うのだけれど、そういう打算的な部分を理解した上で、時には意図的に、一貫してそういう姿勢を貫いていたからで。その強さと偏差値的な意味ではない賢さという高いスキルを身に付けるのは、並大抵のことではないと思う。
 
そんなことをぼつぼつと考える自己鍛錬の日々。