働く母のすすめ

You are stronger than you think.

出産と育児を経験してよかったと思うこと

 

1. 自分が動物なんだと実感できたこと

以前、勤めていた職場に珍しく女性の先輩がいた。女性が少ない業種とはいえ、チラホラと先人はいるのだけれど、"あ、なんかちょっと私とは考え方が違うな...。"というような人(婉曲表現)がほとんどな中、彼女はロジカルで冷静で地に足がついていて、とても信頼できる人だった。ある時、どういうきっかけだったか忘れたのだけれど、彼女が私に「出産と育児を経験してよかったと思うこと」を話してくれた。その時に彼女が言ったのが冒頭の「自分が動物なんだと実感できた」という話だった。当時の私は、結婚はしていたけれど、まだ子どもを産むとか産まないとかを保留にしていた時期で、彼女が言っている意味が全く分からなかったのだけれど、実際に妊娠、出産、育児を経験したら「ああ、これのことか...!」とめちゃくちゃ実感した。

仕事柄、物事をいかにロジカルに捉えて説明するかということが重要視されるため、気がつけば日常でも無意識にそうした言動が当たり前になっていて、まさに「身体は脳のための器」「感情も感覚も制御可能」という感覚で生きていたのだけれど、いざ妊娠してみたら、いくらロジカルに対応しようとしても、身体も感情も感覚も全くコントロール出来なくなってしまったことに驚いた。洗剤の香りにはどうしたって吐き気がするし、栄養が必要と分かっていてもご飯は食べられない。お腹の中では謎の生物が私の意識とは無関係に暴れ出すし、最後には「え?これからまだ大きくなるの?この辺でやめとこうよ...」という私の思いとは無関係に恐怖を感じるほどにお腹が膨らんだ。産後はバインバインに膨らんだ胸から、突然母乳が出るようになり、息子の吸啜行動に対して「あ、今、オキシトシン出たな...。」と思うくらいに感情が和らいだ。

「私も動物だったんだ。」

先輩の言葉を思い出しながら、何度もそう思った。それまでも感覚としては、自分がヒトという生物であることに驕っているつもりは決してなかったのだけれど、それ以来、自分がこの広い物質世界において一個の生物でしかないということの小ささと、今この時空間に生きる一個の生物としての偉大さに、日々畏敬の念を禁じえない。そして、こんなにも素晴らしく美しい世界に生物として生きていられることに、今まで以上にむちゃくちゃ幸せを感じるようになった。

 

2.自分がいなくても世界は回ると感じられたこと

女性の場合、どう頑張っても出産するには仕事を休まざるを得ない。妊娠前は、自分のキャリアや周囲への影響を考えると仕事を休めるとは到底思えずに、果たしていつ産めるのか?を考える日々だった。けれど過ぎてしまえば、そうやって悶々と答えのない問題をあれこれ考えているよりも、文字通り案ずるより産むが易しで、別に自分が休んでも驚くくらい何も問題がない世界がそこにあった。ひとつひとつの仕事に焦点を当てて、自分が休んだ場合と休んでいない場合を比較したら、そりゃ問題が生じた仕事もあっただろう。誰かが休んだ私の代わりに働いてくれたこともあっただろう。ありがとう同僚。けれど、自分がいなくても世界が回ることは、本当はとてもよいことだ。おかげで必要以上に精神的、肉体的に仕事に囚われずに生きられるようになって、仕事が以前より大切になったし、おもしろくなった。貧すれば鈍するというのは、金銭的なことだけではない。気持ちにゆとりがなければ、やはり頭は回らない。仕事から自由であることは、仕事を楽しむ上で、そして成果をあげる上で、重要な要素なのだと思う。この価値観を知れあだけでも、産休を取って本当によかったと思う。サンキュウ産休。

 

子どものかわいさとか子どもとの関わりとか、子どもがいることそれ自体による幸せ以外にも、出産や育児を通じて得られるものはたくさんある。そうやって人生は豊かになってゆくのだろうと実感している。