働く母のすすめ

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味覚が敏感な息子と巧妙に差し始めた光明の話

この話の続き。

頭でごはんを食べる - 働く母のすすめ

息子が"頭でごはんを食べる"という仮説を検証すべく、私は息子と外食に行くことにした。

1つ目のお店は、チーズ料理専門店。
味覚が敏感な子あるあるらしいのだけれど、息子もカリカリとした食感が大好きだ。とりわけ溶けたチーズが天板の上でカリカリになっている部分が大好きで、よくチーズとケチャップをレンチンし、意図的にカリカリの部分を作って食べている。また、チーズフォンデュラクレットは、(茹で)野菜などのシンプルな食材+チーズという「単品食材を使ったシンプルな味付けのもの」の代表例なので、息子が好んで食べる料理の1つである。チーズフォンデュは、息子にとっての(恐らく)top of カリカリ食材であるバケットが鉄板食材に含まれているという我が家にとっては奇跡のような料理で、つまり何が言いたいかというと、チーズは息子がpositiveな感情を抱く数少ない食材の1つなのだ。
そこで、私は息子に「世界にはチーズに意図的にカビや菌をつけて熟成させるという独自の技術や文化がある」という知識を刷り込んだ。そして、まんまと知識という釣り針に引っかかったと思われる息子に「色々なチーズ、食べ比べてみたくない?」と言った。息子は目を輝かせて「食べ比べたい!」答えた。作戦通り過ぎて怖い。目的のチーズ料理専門店に着くと、息子は色々なチーズが食べ比べられる「チーズ盛り合わせ」から始まり、色々な種類や調理方法のチーズをあれこれと頼んだ。見慣れないものへの警戒心よりも好奇心が勝り、色々と食べ比べては「これは少し塩辛いね」「ちょっとパサパサするね」「かかっているソースと合うね」などと感想を言いながら食べ続けた。そんな息子に、お店の店長らしい方が、変わった器具を使って目の前でチーズを削り出してサービスしてくれた。息子は、完全にチーズの虜となった。いつもであれば、ほんの少しの匂いや見た目の異変に目ざとく気がついて「...お腹いっぱい」と食べるのを拒否する息子が、ブルーチーズやウォッシュチーズを「おいしいね!」ともぐもぐ食べていた。私は、息子の食べられるものリストが増えたこと、匂いや見た目によらず食べてみればおいしいものがあるということを息子に提示できたことに対して、心の中でガッツポーズをした。

調子にのった私は、次のステップとして、息子を連れて割烹料理店に行くことにした。
息子は食べられないものは多いけれど、料理を作っているのを見るは好きらしい。小さい頃から、TVやyoutubeなどで料理番組/動画を食い入るように見ていることが多く、デパ地下などでその場で調理しているお店があると、ガラス張りの調理場の前に齧り付いて見入っている。外食でも調理場が見えそうなお店であれば、よりよく見える席に座りたがる。分かりやすく順序立てて物事が進んでいくこと、それぞれの作業に理由があること、職人さんの手つきが美しく、まるでマジックのように食材が料理に変わること。料理には息子の好きそうな要素がてんこ盛りだと思う。それらを自分もやってみたいという思いから、料理を作ることも好きなようで、最近は、ナイフを入れるとふわトロの半熟卵が出てくるオムレツを作るため、試行錯誤している。つまり、板前さんが目の前で調理の仕上げや盛り付けをしてくれるところも含めてサービスと認識して料理を提供している、割烹料理店のカウンター席は、むちゃくちゃ息子の好奇心を刺激する環境なのではないかと思ったのだ。
予想は見事的中し、息子は最初から最後まで、食い入るようにカウンターの中の板前さんの動きを見つめていた。板前さんが柚子を絞れば「わ!柚子の香りが飛んできた」、魚を炙れば「すごい!魚がキュッと縮んだね」と、その一挙手一投足に歓喜した。食器などにも魅せる工夫がなされていて、季節の食材を使った器や液体を入れると模様が浮き出る器など、夫も私も思わず「わ〜」と声を上げてしまう徹底ぶりだった。その結果、息子は初めて見る料理も、変わった見た目や風味のためこれまでは絶対食べなかったであろう食材も、全て残すことなく食べ切った。

息子が"頭でごはんを食べる"という仮説は、正しかった(と思う)。

その後。息子は明らかに以前よりも見慣れない食材や料理に対する警戒心が低くなり、チャレンジして食べてみようという意識が強くなった。10数年間食べられなかったお刺身類や、苦手だったミンチ以外の固形状のお肉も食べられるようになった。塩味限定だけれど、野菜炒めも食べられるようになった。調子にのって、いつもと違う素麺を茹でたら「味が違う...」と言われたり、「ダシダに醤油は合わない」と謎の拘りを発動させたり、相変わらず味覚は敏感で、ご飯を食べてもらえないこともあるのだけれども、それでも、それゆえ食べられるものが増えるのは、本当にありがたい。食事は毎日3食(基本的には)休みなく摂るものなので、ここに拘りを発揮されると、家族にとってはなかなかの負荷になる。たまには手を抜くために外食を!と思っても、食べ慣れた味と異なるお店の味を食べてくれるとは限らないので簡単ではない。基本的には息子の味覚の過敏さすら楽しんでいるので、それほどストレスは感じていないのだけど、それでもやっぱり、ワンパターンにせざるを得なかった料理を(ほんの少し)自由に作れるようになり、私も少し気持ちが楽になった。

そういえば、先日、息子に「最近、食べられるものが増えてきたね」という話をしたら、この時(食べられない理由と食べられる理由 - 働く母のすすめ)の話をされた。なぜか分からないけど、この時に急に「食べられる」スイッチが入ったと言っていた。さらに最近、スポーツ系の部活動を始め、痩せた小さな体がbehindになっていることに気がついた息子は、またもや「頭で考えて」食事の量や質を変えることにしたようだ。私は今日もまた、これに乗じて理詰めで息子の食べられる物を増やしてやるぜと、虎視眈々と機会を狙っている。