働く母のすすめ

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伊代はもう16じゃない

*このエントリーには、多少のフィクションが含まれているかもしれないし、含まれていないかもしれません。


所用で昔住んでいた街の近くに来た。

彼氏を追いかけて上京し、一緒に暮らし始めた街。一緒に暮らし始めて一年もしないうちに、彼氏は夫になった。その街は私たち夫婦のはじまりの場所になった。

8年と少し前まで住んでいた街。降り立った最寄り駅は、何も変わっていなかった。

なかなか開かない開かずの踏み切り。仕事帰りの夫を待つ間に、たくさんの本を買い込んだ駅前の本屋。私が大量買いしたことでプレミア焼酎の存在に気がつき、プレミア焼酎と売れない焼酎と抱き合わせ販売を始めたセコイ酒屋のオヤジ。「こんな高そうなマンション、どんな人が住んでんのかな?家賃いくらやろ?」と2人でゲスい想像を膨らませた駅近のマンション。2人ともまだ駆け出しで、毎日終電まで仕事をしてご飯を作る気力もなくて「ここのん、値段は高いけど味は完全に大阪のんを超えてると思わへん?」と故郷を思い出しながら食べた移動販売のたこ焼き。おっちゃんは、まだ同じ場所でたこ焼きを焼いていた。「今、焼いてるからちょっと待ってね。」あの頃と全く変わらない様子でおっちゃんは話す。8年のブランクなんて、まるで存在していないかのように。

たこ焼きを片手に、2人で住んでいたいたマンションまで歩いた。ところどころ新しいマンションや家が建っていたけれで、街並みも何も変わっていなかった。8年という月日の中で、私という人間はこんなにも変わってしまったというのに。タイムスリップしてしまったのではないかという錯覚に捕らわれ、涙が溢れた。けれど2人で住んでいたあの部屋には、もう違うあかりが灯っていた。

夫に「お土産買って帰ります。」とたこ焼き屋のおっちゃんの写メを送ったら「アカン、泣けるわ。」という返事が来た。

あれからまた転々として、今の街に住んで4年が過ぎた。今住んでいる街は、私たち夫婦にとって、8年前まで暮らしたあの街よりも長く住んでいる唯一の街になった。


「母ちゃん、ご用事があるから、今日は息子ちゃんが寝る前に帰れないかもしれないなあ。」そういうと息子は「母ちゃん、ご用事が終わったら、息子ちゃんに電話してくれる?息子ちゃん、母ちゃんにお話ししたいことがあるから。」

失ったものばかりではない。新しく生まれた命も関係性もある。あの頃とは違い、親としても仕事人としても、肩に大きな荷物を背負って闘う毎日に心折れそうになる日もあるけれど、明日も精一杯、小さな小さな歩を進めよう。


うちにかえろう。 - 働く母のすすめ