働く母のすすめ

You are stronger than you think.

The mother is my mother.

週末は、夫婦で出かける必要があったため、私の実家に息子を預けに行った。

 
昼過ぎに着くとメールしておいたのだけど、到着すると、家の中はしんとしていた。玄関から居間の窓越しに、庭で草むしりをしている私の父の背中が見えた。家に上がるかどうか迷っていると、家の裏手から子どもの甲高い笑い声がした。甥っ子だ。裏にまわると、大きなツバの帽子をかぶってやはり草むしりをしていた母が「あら。着いたん?」と顔をあげた。私の名前を呼びながら駆け寄ってきた甥っ子の後ろには、この春から小学生になった甥っ子の新しいおともだちが立っていた。姉と甥っ子が私たちの実家に住むようになってから、3回目の春がきている。
 
お昼ご飯を食べるには遅い時間になっていたけれど、母は「お昼、食べてきたん?」と聞いた。まだと答えると、やっぱりという顔で「お蕎麦くらいしかないけど、ええ?」と言いながら、私の返事を待たず、鍋に水を入れ始めた。あり合わせのおかずを並べ、お茶を淹れ「これ伯母さんにもらったんやけど、静岡からお取り寄せしたらしくてね。」などと言いながらワサビをずさずさとすりおろし、いそいそと台所中を動く。そうかと思うと、庭から私の父がやってきて「おい。防虫スプレーどこいった?」と言うので、エプロンで手を拭きながら「裏の道具箱の横にあったと思うんやけど。」とつぶやき勝手口を出て裏庭へと探しにいく。戻って来ると、今度は甥っ子が「お腹すいた。ラーメン食べたい。」と言うので「塩ラーメンしかないけど、ええ?こうちゃんも食べる?」と甥っ子のおともだちにも聞く。うん、と言う返事が耳に届く頃には、もうたっぷりの水が火にかけられていた。
 
お昼ご飯を食べ、そろそろ出かけなくてはと腰を上げようとすると、玄関のチャイムが鳴った。母がお茶碗を洗いながら「誰やろ?」と言うので玄関を覗くと、引き戸がガラガラと開き「こんにちはー!」と、可愛らしい双子の女の子が立っていた。甥っ子が言葉をかけると、慣れた様子で「おじゃましまーす。」と持っていた自転車用ヘルメットを玄関にひょいと置き、ドタバタドタっと2階の甥っ子の部屋に上がっていった。階段の途中で振り返り、見慣れない私の顔をじっと見る双子のどちらかに「バイバイ」と手を振ると「バイバイ」と手を振り返してくれた。息子にいってくるねと言葉をかけ、夫と私は実家を後に精神科へと向かった。
 
夕方。息子を迎えに実家に戻ると、さすがにもうおともだちの姿はなかったけれど、その後、甥っ子のおともだち二人とその弟一人が加わり、総勢8人で遊びまわっていたという話を聞いた。自転車で駆け回る子どもたちの後ろを「まだ完全に目を話すには少し不安だから」と母は駆け足でついていく。そういえば、昔から母は心配性で、私が高校受験の帰り道に、友達と寄り道をして帰りが遅くなった時も「試験が出来へんかったから、川に飛び込んでるんちゃうかと思った。」という妄想を膨らませ、帰宅した私の顔を見て、ぽろぽろと泣いたのを思い出した。
 
地域の民生委員でもある私の母は、甥っ子が家にいる時間は、姉の代わりに甥っ子を追いかけ回しているのだけれど、空いている時間には地域の子どもたちのためのボランティアをしている。乳幼児とその母親を相手にした子育てイベントを行い、しかるべき場所に通報のあった家庭の見守り訪問し、勉強についていけなくなってしまった中学生との勉強会に参加している。そのための研修などにも通って自ら勉強し、さらに時間ができると認知症になった母の母の家に顔を出したり、リュックサックにいっぱいの荷物を詰め込んで、我が家にやってきてご飯の作り置きなどの家事を手伝ってくれる。畑に行き、野菜を作り、収穫物などを近所に配り歩く。物を、時間を、気持ちを、与えて、与えて、与え続けている。

日曜日の夜。月曜に向けたため息をつきながら。
私の母がずっといてくれたら癒されるのにね。と苦笑いをしながら夫が言った。

母親とは。